略奪ウエディング



「梨乃」

「お母さん」

母と父と梨花がそばにやって来た。

「あなたったら、急に帰って来るんだもの。準備もゆっくりできなかったわ」

「そうだよ。学校を早退したなんて言ったら勘ぐられそうで焦ったよ〜」

「俺は家に入れずに外でずっと待ってたんだぞ。親不孝者。片桐くんの家にいればいいものを」

私は泣きながらも思わず笑ってしまう。父が家の前でイライラしている様子が思い浮かんだからだ。


「早瀬さん、片桐です。この度はご挨拶が遅れまして…」

悠馬のお母さんに話しかけられ、父と母は振り返った。そのまま、ふた家族は話しながら席に戻っていく。


その様子を見ながら彼に言う。
「…大変だったでしょう。こんな、…何もかも…」

言いながら悠馬を見る。彼は笑って得意げな表情を見せた。上目遣いで私を見下ろす。

「オーナーの機嫌を取るよりは簡単だったよ」

「まあ。課長サマらしくない発言…。オーナーのご機嫌取りは得意なんじゃ…」

「大変だったのは、君を色々誤解させたこと。途中で泣きたくなったね」

「…ごめんなさい。私、分からなくて」

「でも…梨乃を綺麗な花嫁にしたかった。…と、言うか俺がそれを見たかった。エゴだね」

「悠馬…」

ここまで話したところで、司会が入る。
マイクを持って牧野くんがこちらに手を振っている。

「では、皆様。今日は二人のお祝い会ということで、早速始めましょう。

まず最初に、我が部署のボス、赤沼部長からご挨拶を頂戴致します。部長!お願い致します」

言われてアカマメが立ち上がる。


「ウォッホン!ええと、ま、とにかく。おめでとう!早瀬、片桐を早く尻に敷いて、黙らせてくれ!以前から何度も言っているが、やりにくい!俺をバカにして、非常に困る!頼んだぞ」

会場がドッと沸く。
皆はいつものように口笛を吹いたり、親指を逆さにしてブーイングをしたりしている。

「黙れ!黙れ!片桐の影響を受けるな!こんな部下は一人でいい」

アカマメは、赤い顔で叫ぶように力説していた。
私は可笑しくて、笑いすぎて…、幸せで…。……涙が出た。

本当は諦めていた。
ドレスも、祝福も、…東条さんのことも。もう二度と会うことはないと思っていた。
それを悠馬はまるで魔法をかけたかのように一気に叶えてくれた。





< 161 / 164 >

この作品をシェア

pagetop