略奪ウエディング


「はい、そこー!イチャイチャしない!課長、新妻に是非ラブソングを!」

牧野くんがマイク越しに言う。

「えっ。…歌!?無理!無理無理!」

悠馬は手をブンブン振りながら拒絶する。

その様子を見ながら私はポツリと言った。

「悠馬……まさか?」

彼は困った顔をしながら小声でコソッと言う。

「………音痴なんだよ。無理。こんな大勢の前であり得ない」

ええっ!!嘘!?
彼の言葉に驚いた後、可笑しくなって私は笑った。

彼の欠点を、初めて知った。

眉目秀麗、勇猛果敢なエリート課長の意外な盲点。

それを知りさらに彼への愛情が深まる。
あなたを取り巻く全てのことが、愛しくて堪らない。

手を引っ張られて、抵抗する彼を隣で見ながら思う。

これからも、私の全てはあなた次第。もっと色んな顔を見せて。
歳を重ね、今よりお互いを知ったなら私はもっとあなたを好きになっている。

「じゃあキスしたら許しましょう!」

「ええ!?またかよ!牧野、君への引き継ぎの仕事を増やすぞ!」

「えっ!?出た!またパワハラだ!」

会場は笑いの渦に包まれている。

こんな幸せがこれからも、いつまでも続いていく。

悠馬さえそばにいてくれるなら他に欲しいものなんてない。



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