略奪ウエディング


「そのデータは使えないな。じゃあ新しいものをダウンロードしてここに貼り付けるといい。このソフトに入ってるから」

わざと事務的に答える。
隙を見せると、女性は容赦ないことを俺は知っているから。おとなしそうに見えても、早瀬も分からない。横浜でも散々な目に遭ってきたんだ。

「分かりました。ありがとうございます」

早瀬はそんな俺に対して深々と頭を下げると資料を引き上げあっさりと立ち去った。

そんな彼女の様子や仕草に、これまで接してきた女性とは違う印象を持った。
見るからに清楚で攻撃的ではない彼女を、俺の好きなタイプの女性だと思った。
だが、それだけだ。

惚れたりなんかは決してしない。自信を持ってそう言える。
俺は自分に言い聞かせるようにそんなことを思っていた。

それ以来、早瀬とは特別何もないままに時間だけが経っていた。

そんな彼女が、つい先日俺のデスクにおずおずと近づいてきた。

目が合ったので声をかける。

「どうした。何か質問か?」

「いえ、あの…」

早瀬はビクビクとしたような上目遣いで俺を見た。
じっと見て思う。相変わらず清楚で綺麗な子だな。
そんな事を考えながら、仕事上でのミスの報告だろうと、軽い気持ちで訊ねる。

「何かあったのか?言ってみろよ。怒らないから」

俺は少し笑ってさらに言った。
彼女の緊張が伝わってきて、それがとても可愛くて可笑しく思えた。







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