略奪ウエディング
「あの、お願いがあるんですけれど…」
しばらくの沈黙の後、もじもじしながら彼女は話し始めた。
「お願い?いいよ、言って」
俺は笑いを堪えて先を促す。
「木曜日の夜、少しお時間をいただけませんか」
意外な申し出に少し驚いた。
「木曜?いいけど、その日は会議が…」
スケジュール帳を開いて見ながら俺は答えた。
「いいです。待ちます。待たせてください」
「そう?…早く終わるといいけど。何?相談?」
「相談というか…、はい。お願いします」
彼女の必死さが何となく伝わってくる。
一体何の話があるというのだろう。
まともに話したことなどほとんどないはずだが…。
「分かったよ。じゃあ空けておくよ」
早瀬はペコリと頭を下げると、パタパタと足早に去っていく。
その後ろ姿を見ながら俺は首をかしげた。
仕事では今のところ共通する案件は持ってはいないはずだが?
まさか、男の相談とか?
でもそんな話なら何も俺でなくとも。
色々考えてみるが、何も思い浮かばなかった。