略奪ウエディング

「私、課長が…ずっと、好きでした」

は!?

突然そう言われ、俺は驚きで動けなかった。
自分の気持ちを言うだけ言って、「じゃ、…私、これで」と立ち去ろうとした彼女に思わず言っていた。
「…今の話は、過去形なの?」
今度は自分で自分の言葉に驚いてしまう。

だが、次に彼女が言い出したことにまたさらに驚いた。
「私、来月には寿退社するんです。春には結婚するんです」
はあ!?
何だ、それは!

何故俺はこんなに腹が立っているのか。
早瀬が他の男と結婚する。それがどうしても納得できないでいた。

そうか。…俺は早瀬がずっと気になっていたのか?
じゃあ好きだったのか?…いや、そんなことはない…と思うが。
だが、彼女が俺への気持ちに区切りをつけようとしていることが、無性に嫌だった。

君は俺の何を知っているのか。会社での様子だけで俺という人間を判断したのか。
俺をもっと知って欲しい。
君のことをもっと知りたい。
俺たちはこのまま何も始まらないまま終わってもいいのか。

だが、君の中で俺への気持ちがすでに過去形なら、俺にできることはもう、なにもない。

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