略奪ウエディング


しばらく続いた沈黙に、私の平静を保つ糸が今にも途切れそうになっていた。

「じゃ、私…、これで。聞いていただいてありがとうございました…」

深く頭を下げて声を絞り出すように言う。

「…過去形?」

頭上から聞こえた課長の声に顔を上げる。

課長を見上げた私の目は、もう、涙で濡れていた。
頬を伝う涙が、冷たい風に晒されながら流れ落ちていく。

「今の話は、過去形なの?」
そんな私を真っ直ぐに見つめながら課長は繰り返し聞いてきた。

課長の質問の意図が読めない。

「え?」

不思議がる私に課長はふわっと笑顔を見せる。

「全く予想もしていなかったから驚いたけど…、嬉しいよ。早瀬さんのことは、…実は以前から可愛いと思っていたから」

照れたように頭をかきながら言う課長の発言に、私は言葉を失った。

…う、嘘!?

片桐課長が私を可愛いと思っていた!?
今のタイミングでそんな風に言われるなんて。どういう意味なの?

私は会社では目立たなくて、思っていることの半分も話せない。
仕事もミスが多くて課長にはいつも迷惑をかけている。

「私なんて…そんな風に言っていただく資格のない人間で」

「こら。そんな事を言うな」

思わず口をついて出た私の言葉を遮るように課長が大きな声を出した。




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