略奪ウエディング
「君は全然分かっていない。自分を知ろうと努力していない。そんな君が、自分を卑下しちゃだめだ。
残業も雑用も、嫌な顔ひとつせずに引き受ける君はとても素敵だと思うよ。もっと自分を信じて」
課長の言葉に、さらに涙がこぼれる。
この人を好きになって良かった。心からそう思った。
手で顔を覆う私の頭に、温かい手が乗せられ優しく撫でてくれている。
もう、十分だ。これで私は前を向いて歩いていける。
「それで?…俺はどうしたらいいのかな?慰めるのは得意だけど」
私は再び顔を上げた。
「あり…がとう、ございました。どうもしなくていいんです。…気持ちを伝えたかっただけなんです」
「え?どういう…こと?」
「私、来月には寿退社するんです。結婚するんです。気持ちの整理がしたかった。
だから、これで、よかったんです。聞いてくださってありがとうございました」
私がそう言った瞬間、課長の顔から笑みが消え去った。
軽蔑したのかもしれない。
結婚するくせに、別の人に思いを告げている私を。
「…もう、お会いすることもなくなります。どうか今日のことは忘れて…」
「好きなの?だから過去形だったの?」
険しい表情で課長が私に訊ねてくる。
「好き?あの、何が」
「結婚相手のこと」
「課長?」
「なぜ今、俺を好きだなんて言うの。結婚するなら」
怒って…るの?どうして?
課長が怒りを露にする理由が分からないまま私は課長の顔を黙ったまま見つめていた。