略奪ウエディング
そんな私を見下ろして、課長は真剣な顔をしている。

「俺は本当にここにいてもいいの？最後の、質問だよ。梨乃が決めて。これは、あってはならないことなのかも知れない」

「…いて。お願い。行かないで…。好きなの。好きなんです、…課長だけ」

私は必死だった。
失いたくない。
一瞬でも、幸せに包まれたなら、それをもう忘れることなんてできない。
蕩けるようなキスや、痛く切ない感情。あなたでなければ感じられない。

課長はそのままストンと再び座ると私に手招きをした。

「おいで。俺の隣に座って」

私は立ち上がると引き寄せられるように課長の隣に座った。
カフェで並んで座るなんて、初めてのことだ。

今ほどの衝撃がまだ心に残っていた私は、何も話せずに黙って俯いていた。
今は行かないでいてくれた。
でも、いつか、もしこの事態が本当に起こったならば私はどうしたらいいのだろう。
本気で愛する人がもたらす威力に、私は今の瞬間に打ちひしがれてしまったようだ。

私の選択はやはり間違っていたのだろうか。このままいけば課長の言う通り不安と隣り合わせに過ごすことになる。今に私は、すがりついて、嫉妬して、課長に疎ましく思われてしまうのか。これまでにしてきた恋のように。
今すぐに冷静になって、正しく穏やかな日常を送るほうが賢明なのだろうか。


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