略奪ウエディング


挨拶ひとつでこんなに朝からドキドキさせられるなんて。
結婚なんてしてしまったならこれから私はどうなるのだろう。

パソコンの画面を見ているふりをして、目だけで課長を見つめる。

昨日までと何も変わらない様子で課長は仕事に取り掛かっている。

私だけがこんなにドキドキして、なんだかずるいわ。
課長にとっては何でもないことだったみたいに。

急にまたしても不安が襲ってきた。
昨日、課長と別れてからもずっと実は不安だった。

朝、目覚めて全てが夢だったらどうしようって。

昨日の今日だから、実感が湧かないのは無理もない話だけど。

その時。
パソコンにメールが届いた。

「こら、ぼんやりしていないで仕事して。視線が気になって困るよ。
今日のお昼、一緒に食べよう。それまで頑張って。
片桐」

えっ!?私は再び課長の方を見た。
そんな私に、ニコッと一瞬笑ってから課長はまた仕事を始める。

ドキッ。
見ていたのがばれてる。
…恥ずかしい。

私は赤い顔を隠すようにパソコンの画面に顔を近付けた。

もう本当に、気持ちを落ち着かせる隙もない。


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