略奪ウエディング
「私は今日はいいわ。…冷やかされるのは得意じゃないから」

私はためらいながらそう答える。
昼間に思わず課長とのことが周囲に知れてしまい、気後れしていたのだ。

「ええ~?行かないの?旦那様の号令なのに。嫁失格よ!他の女に言い寄られるわよ!」

「私のことは気にしないで。行って?仕事も実はまだ終わってないの」

本当はもう、手が空いたから帰ろうとしていたところなんだけど。
適当に報告書の入力でもしておこうと思いながら言った。

「そう?じゃあ私、行くわね。あ、そうだ。明日、結婚相手が片桐サマに変わった訳をたっぷりと聞くから覚悟するのよ?」

手を振って彼女を見送る。
フーッとため息を吐いて報告書を手に取った。
気付けば、広い事務所には私一人だけが残っていた。

本当は、今日は一人で色々考えたかった。

これから私は課長とどのように付き合っていけばいいのだろう。
課長が、まさか冗談を言っているとは思わないけれど、二人の間に気持ちの温度差があることだけは感じていた。
それが続けばいつか、不安に追い詰められたときに私は多くを求めすぎて課長を苦しめてしまうのではないだろうか。
そんな予感が頭の中を巡っていた。


< 45 / 164 >

この作品をシェア

pagetop