略奪ウエディング

そこまで話すと梨乃の顔がくしゃ、と歪んだ。ポロポロと涙を流して子供のように泣き出した。

「…バカだな…」

その頭を腕に包んで再び胸に収めた。

俺の、胸の音が君には聞こえないか?
この中身も出来ることなら見せてあげたい。
初めてなんだよ、俺も。こんな気持ちは。茜には感じなかった。
どうして失うだなんて、思うんだ。

「嫉妬は嬉しいけど…、信じてほしいな、この気持ちが揺るぎないものであることを。茜と梨乃は、違う。だから茜と別れて梨乃といるんだよ。
…思い出して。奪ってまで君を俺のものにした。梨乃と一緒にいたいと思ったから」

俺の言葉に、彼女は肩を震わせてさらに泣いた。

君はこれまで俺のためにどれだけの涙を流したのだろう。
これからも、きっと君の目からはたくさんの雫が流れ落ちるのだろう。
でも、俺が全部それを拭うから。

「お腹が空いたな。鍋が美味しく食べられそうだ」

俺が言うと、彼女は顔を上げてニコリと笑った。
涙の痕が残る頬のまま、俺の手をキユッと握ると元気に俺を引っ張り歩き出す。

俺は微笑みながら、そんな彼女を見ていた。
転ばないように、見張りながら。

男が婚約指輪を贈る気持ちを、舐めてもらっては困るな。
俺の前を歩く彼女に、心の中で呟いた。


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