略奪ウエディング


ぼんやりする私を見ながらスミレが言う。

「…ダメよ、彼は。あんたの手に負える相手じゃないわ」

「…え?」

私は課長から目を離してスミレを見た。

「モテるし、相手は選び放題。飽きられて乗り換えられたら立ち直れないでしょ」

「や、やだ。そんな、私は」

「バレバレよ。惚れっぽいんだから。だ・め・よ。彼は観賞用よ」

短大時代からの友人であるスミレには全てがお見通しのようだ。
実際、私が恋人に捨てられる度に彼女には慰められ助けられてきた。

「…素敵だなって、少し思っただけよ。分かっているから」

「そう?ならいいけど」

そんな私たちに他の同僚が話しかけてくる。

「ねえねえ、企画課の前原さん、受付の香織と別れたんだって」

「マジ!?飲み会、飲み会!前原さんの都合聞いて!」

スミレはすでに別の男性の話題に入っている。

私もそんな風にできたなら。

そう思いながら私は課長の歩いて行った方向を見ていた。


< 8 / 164 >

この作品をシェア

pagetop