略奪ウエディング
「早瀬さん、君は俺の課だったよね。これからよろしくね」
「ぶほっ!」
急に話をふられ、私は咳き込んだ。
「きゃ、梨乃!何やってんの」
スミレが私の背中をさすって言う。
「ごめん、驚かせたかな」
課長の手が私の肩にそっと乗せられた。
「いっ!いえ!…ゴホッ。すみません!大丈夫です」
私は喉に詰まりそうになった卵焼きを無理矢理飲み込んだ。
おそらく一人、話に入れない私を気遣って声をかけてくれたのだろう。
それなのに私ったらなんて態度なの…?
「そ?ごめんね。じゃ、これで。皆さんこれからよろしく。あ、ホモ疑惑は訂正しといてね」
「課長、くどいです~」
スミレの返しに課長は爽やかに笑う。
「あ、くどいのがもうばれちゃった?仕事もこの調子でしつこいから」
言いながら課長は私たちに軽く手を振ってから歩き出した。
「いやー、やめてください」
その場にいた全ての人が笑っている。
…私を除いて。
私は課長の後ろ姿を見つめながら、先ほど触れられた肩を押さえていた。
熱を持ったようにその部分が熱い。
ヤバい。この気持ちの行方を私は知っている。
きっと身動きできないほどに課長を恋慕う前兆。
二十四歳になった今まで、たくさんの人を好きになってきた。
だけど決まって破局の理由は同じ。
『重い』。
そう言われて振られる。
あんな思いをするのはもうたくさん。
好きになると彼以外、何も見えなくなる。
課長を好きになってはいけない。
受け入れてなんてもらえない。
消えてなくなりたくなるほどの辛い気持ちがまた残るだけよ。