略奪ウエディング
リビングに通されソファに座る。

「こちらを」

手にしていた箱を差し出す。

「横浜のチーズケーキです。母が送ってきました。今日は都合でこちらに参れなく申し訳ないと申しておりました」

「ありがとうございます。お母様にもお礼を言っておいて下さい」

お父さんがニコリと笑う。
その表情を見て、若干緊張がほぐれた。
お見合いを壊してしまった男をお父さんが認めるはずはないと思いながらここに来たのだから。

「娘さんと、結婚させてください。必ず幸せにします」

俺は頭を下げて頼んだ。

「娘から、話は聞いています。片桐さんにも嫌な思いをさせてしまったようで、すみません。東条さんは私の上司の息子さんで私もどのような方か実はよく分かっていなかったのです。梨乃の支えになっていただきありがとうございます」

「いえ、そんな」

お父さんの反応が、余りにも意外で俺と梨乃は驚く。
叱られて追い返されてもおかしくはないと思っていた。

「私に反対する理由はありません。梨乃がそうしたいのなら。この子の人生ですから」

「…ありがとうございます」
俺は安堵と同時に、拍子抜けしたような声で言った。
俺を責めるどころか、温かく受け入れてくれた。人として、尊敬できる素晴らしいご両親だと思う。

お母さんがお茶を持ってきた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「この子は昔から内気で。何も言わないことが多いから一緒にいるとイライラしてしまうかもしれませんよ?」

お母さんは言いながらお父さんの隣に座る。

「そうよ~、ヤバくなるとすぐに黙ってさ。ずるいのよ、お姉ちゃんは。いつも私が怒られるの」

口を挟んだ梨花さんにお母さんが言う。

「あなたが悪い場合が多いからでしょ。黙ってなさい」

「何よ~」

口を尖らせた梨花さんを見て俺は微笑んだ。

「梨花。恥ずかしいでしょ」

梨乃が言う。

「何よ、彼氏の前だと気取って。いつもならプロレス技かけてくるのに」

「えっ」

俺は驚いて梨乃を見る。

「やだ、し、しないわよ」






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