略奪ウエディング
――正午を少し回った頃に早瀬家を出た。梨乃と一緒に街を歩く。
「許してもらえて良かったです。今日はありがとうございました。とても嬉しいです」
笑顔で俺を見上げて嬉しそうに話しているが、無理にはしゃいでいるように見える。
「あの、結婚式のことだけど…」
俺が言いかけると、彼女は通りかかった店のショーウィンドウを指差し「あ、見て下さい、あの食器。素敵。私もあんな食器を揃えたいです」と話を逸らした。
俺はその話をするのをやめて彼女の手をギュッと繋いだ。
「今日こそは俺の手料理を食べてもらおうかな。買い物に行こうか」
俺が言うと彼女は今度は俺の目を見た。
「はい。お願いします」
………きっと無理しているんだろうな。
そう思いながら微笑み返した。
俺が梨乃の夢を一つ奪ってしまったような罪悪感が心に広がる。
焦るあまり計画も立てずに梨乃に婚約破棄をさせてしまった。
俺も、純白のウェディングドレスに身を包んだ君を見てみたい。祝福に沸く幸せの中で笑う君を抱き上げて頬を寄せてみたい。
君はどんな風に愛を誓うのだろうか。
きっと濡れた瞳で俺を見上げる君は、この上なく美しいだろう。
お互いにやりきれない思いを隠すように俺たちは笑い合って買い物をしていた。
結婚の許しを得て幸せに満ちたはずの二人なのに、どこかよそよそしかった。