略奪ウエディング
「東条専務の条件なんだ。片桐さんと結婚するなら結婚式は控えてほしいと。私はそれを受け入れようと思う」
俺は頭の中で考えた。
お父さんの言い分も分かる。おそらく会社では今回のことでかなり肩身の狭い思いをされているだろう。
東条さんのほうも縁談が壊れ、息子さんの相手がその奪った男と結婚したと噂になってはまずいからだろう。
経緯はどうあれ、あの場合では当然こちらが悪いことになる。条件を出されたなら呑むのが当然だ。だが単に嫌がらせをしているだけなのかも知れないとも思う。
しかし…。
俺は梨乃を見た。
俯いて、黙っている。
若い女性なら当然、結婚式に憧れているだろう。
俺も彼女のドレス姿が見たい。
どんなに綺麗だろうと思う。
「梨乃。…どうする?」
俺が聞くと、彼女は薄く笑いながら俺を見た。
「別に、いいですよ。興味はあまりなかったから…」
その笑顔が寂しそうで、可哀想になる。
きっと、俺以外の相手とだったら堂々と結婚式はできただろう。俺は…お見合いを壊して奪った張本人だから。
「梨乃…」
「いいわ。分かった。お父さん、結婚式はしないわ」
「ごめんな、梨乃」
お父さんも娘の晴れやかな姿を見たかっただろうに。俺のせいで…。
「えー!結婚式しないの?私とお兄さんのお友達との新しい恋はどうなるのよ!」
「梨花!あんたは中学生でしょ!恋はまだよ!」
「できるもん!イケメンの友達は皆イケメンだもん!」
「意味の分からないことを言わないの!」
お母さんと梨花ちゃんの会話にみんなは笑っているが、梨乃の笑顔だけはどこか寂しく見えた。