略奪ウエディング
――「じゃあ、また明日」
「はい。ごちそうさまでした」
ご飯を食べ終わり、私は課長の家を出た。
バスに乗り込み、座席からバス停を見下ろす。
笑顔でこちらを見ている課長に軽く手を振った。
花嫁衣裳で着飾らなくても、そのままの私でいいと言ってくれた彼の優しさが胸に残っている。
その言葉を信じて彼の元へ行こう。
婚約指輪をそっと触りながら課長を見つめているとバスはゆっくりと動き出した。
十分ほどバスに揺られ降りた私の目に、救急車とパトカーが映った。
バス停のそばで事故があったようだ。
道路が封鎖されて渋滞が起こっている。
その真横を歩きながら通り過ぎる瞬間に、救急車に運ばれる人の顔を見て私は手で口を押さえて驚いた。
――…東条さん!?
蒼白な顔で担架に乗せられている。
思わず駆け寄って彼を呼んだ。
「東条さん!東条さん」
そんな私を見て救急隊員の人が尋ねてくる。
「お知り合いですか」
私は彼を呼ぶのをやめて振り返った。
「急に道路に飛び出したみたいなんですよ。そこを車に撥ねられて…。意識はないですが命に別状はないようです。緊急搬送しますので付き添っていただけるとありがたいんですが」
「はい、行きます」
迷わずに答える。
私は東条さんと共に救急車に乗り込んだ。