略奪ウエディング


車内で彼の顔を改めて見て思い出したのは、出会ったばかりの頃の柔らかな笑顔だった。

未だにあの日言われた事がどこか信じられないでいた。最後に会った日の東条さんの印象があまりにもそれまでのものとはかけ離れていたから。

紳士的で穏やかな彼と過ごしながら、幸せな人生を送ることができると確信出来たのだから。

「…東条さん…」

意識のない彼を呼ぶ。
どうか目を覚まして。
心から願った。

その手をそっと両手で握り額を当てて祈る。

……ピクッ。

すると彼の手が微かに動き、私は顔を上げて彼を見た。

うっすらと彼の目が微かに開いた。身を乗り出して彼を真上から見下ろす。

「………り…の……ちゃ…」

震える唇が小さな息の声で私を呼ぶ。

「東条さん!しっかりして!」

私が叫ぶと彼は確かに緩く笑った。そして再び目を閉じる。

「東条さん!」

肩を揺らして再び目が開くのを期待する。

「揺らさないで下さい!器具が外れます」

…あ。
救命士に言われて彼から離れた。

どうか、お願い。彼を助けて下さい。私は心の中で再び祈った。


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