略奪ウエディング
***

「…気分はどうですか?」

私の呼びかけに東条さんは呆けたようにぼんやりと私を見つめた。

「…梨乃…ちゃん?」

「はい。…分かりますか?ここは病院ですよ」

あれから家に連絡をして東条さんのそばにいた。
彼のご家族とは相変わらず連絡は取れてはいなかった。

彼が目を覚ましたときに、そばにいてあげたかった。
外はもう、暗くなっていた。事故が起きてから四時間ほどが経過していた。

「どう…して…」

「驚きましたよ。救急車に運ばれているんだもの」

私が笑いながら言うと、私を見つめる彼の目が赤く潤み始めた。

…え?

「東条…さん…?」

「夢だと…思ってたよ。…君が、薄らぐ意識の中で…見えた気がして…ずっと、夢を見ていると…」

彼の目から涙がひとしずく流れて落ちた。
どうして…?何故、彼は泣いているの?私は黙ったまま彼を見ていた。

「あの…?」

東条さんは天井を見ながらゆっくりと話し始めた。

「俺は…、あの日、君に呼ばれて嬉しくて…。まさか、あんな話をされるとは思っていなかった」

私の心臓が痛いほどに動いた。
…何!?彼は何を言おうとしてるの?
これ以上聞いてはいけない気がしていた。でも、足が動かない。

「君が、…彼に寄りかかるのを見た瞬間、大方の予想はついた。きっと…俺はこのまま君に会えなくなる。彼が君の愛する人なのだと…」








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