青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
変わらない彼女の表情に、何も言えない。
だって、今まで離婚していなかったのがおかしなくらいだ。
父親のいない日常は、利乃にとっては当たり前なのかもしれないけど。
利乃は、どんな表情をしていいのかわからない俺を見て、笑った。
そして、また『あのね』と言う。
ヒュウと吹いた夜風が、利乃の声を震わせたような気がした。
『ママが見たことない顔して、怒るから。わたし、怖くなって…泣いちゃったの』
その声だけが、震えている。
利乃はぎゅ、ときつく目を閉じて。
『…そしたらパパがね、怒鳴るの。“うるさいから泣くな”って、怖い顔して、言うの』
ベランダのてすりを持つ、手が震えている。
何も言えずに立ち尽くす俺の方を向いて、利乃は自嘲するように、笑う。
次に『どうしよう、慎ちゃん』と言った顔は、口の端が不自然に上がっていた。
『…わたし、いつの間にか泣けなくなっちゃった』
……彼女の、目が。
潤いを持てない乾いた瞳が、俺に助けを求めていた。
『……………』
幼い俺には、上手く利乃にこの思いを伝えるための言葉を知らなくて。
唇を噛んで、そっと華奢な体を抱きしめる。
それでも利乃は、笑わなくていいのに、ふふ、と笑った。
『…泣きそうになったら、パパの怒った顔が浮かぶの…どうしよう、慎ちゃん。苦しくなったら、わたし、どこにぶつけたらいい?』
俺にぶつけていいよ、なんて、言えなかった。