青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


『……慎、ちゃっ…』

『もう、帰ろう。早く帰ろう!』

足がもつれる利乃を引っ張り、俺たちは祭りの会場を出た。


…それからだ。

利乃がこの街の祭りへ、行くことを怖がるようになったのは。


『…はぁ、はぁ、はぁっ…』

家には帰らず、走って海へ行った。

砂浜で立ち止まり、荒い息を整える。

利乃はボタボタと、涙を流していた。


『だれ、あの人。なんでママと、一緒にいるの。う、わぁぁん、もお、誰ぇっ…』


砂浜に膝をつき、利乃が声をあげて泣く。

…利乃は何度も誰、と繰り返していたけど、あの光景が何を意味するのか、いくら俺たちでもわかってしまう。

祭りのこの日、利乃の母親が『留守番をしてて』と言ったのは、このためだったんだ。

…利乃の母親は、とっくに他の男をつくっていたんだ。



それからまもなくして、利乃の苗字が『栗原』から『滝本』へ変わった。

六年生の夏祭りに、利乃が行くことはなかった。

俺は友達に誘われて行ったから、おみあげにりんご飴を買って帰った。


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