青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。


けど、その年の夏休みのなか頃、俺と利乃は世界で“ふたりきり”になった。


その日は日曜日だったから、俺の父親は家にいた。

けれど夕方あたりから、母親と喧嘩を始めたのだ。


仕事の鬱憤を晴らすような大声で責め立てる父親。

何も言い返せずに、ただただ泣くばかりの母親。

俺はその声を、二階の自分の部屋で聞きながら震えていた。


……今度こそ、離婚するかもしれない。


いざそう考えると、抑えようがない恐怖に襲われた。

今までは、ひとりで泣く母親を見て、離婚すればいいのにと思っていたのに。

本当にそうなるかもしれないと思うと、突然いいようのない恐ろしさに体が震える。


離婚、するかもしれない。

俺は一体どうなるんだろう。

父親のいない子供になる?

母親のいない子供になる?

どちらにしたって、今まで当たり前のように家の一員だった人間が、消えるんだ。

俺のいる家庭から、母さんか父さんがいなくなるんだ。

考えるだけで、怖い。

すごくすごく、恐ろしい。


…俺のことなんか、ふたりは見てない。

いつも、そうだった。

泣いている時の母親は、俺の存在に気づきもしない。

仕事ばかりの父親は、見てみぬふりをする。

だから今だって、部屋でひとり俺が怯えていることだって、気づかないんだ。


…なんでだよ、もっとこっちを見てよ。


どんどん暗くなっていく夜空を、ベランダの扉のガラスから見上げる。

…おなか、すいた。

けど、何も食べる気にならない。

部屋の扉に鍵を閉めて、しばらくうずくまっていた。


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