青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
気づけば、深夜になっていた。
一階から聞こえていた父親の怒声も、もう聞こえない。
ふたりとも、寝たんだろうか。
よたよたとベランダの扉を開けようとして、その声を聞いた。
『……慎ちゃん!』
扉ガラスの向こうから聞こえたその声に、驚く。
急いで扉を開け、ベランダへ出た。
『………慎、ちゃん』
隣の家のベランダに、利乃が立っている。
利乃がそばにいてほしいときは、いつもこうやってベランダから声をかけられるから。
また何か、辛いことがあったんだろうと思った俺を見て、利乃はハッとした。
『………泣いてるの…?』
………え?
頬に、手を添える。
確かに濡れたあとがあって、自分で驚いた。
…いつの間に、泣いていたんだろう。
『……なんでも、ないよ。それより、どうしたの』
心配かけたくなくて笑った俺に、利乃は『うそ!』と叫ぶ。
『なにかあったんでしょ!?言ってよ!』
『大丈夫だって。利乃の話、聞かせてよ』
あくまで誤魔化そうとする俺に、利乃はぐっと唇を噛んだ。
そして、悔しそうに目を伏せて、『海』と言った。