青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
『……慎ちゃん。海、行こう』
潮の匂いが、鼻をかすめる。
利乃は俺を、まっすぐに見つめていた。
『……今から?』
『今から』
当然、もう外は真っ暗だ。
そんなの親に心配される、と思ったけど、すぐに今日のことを思い出した。
……どうせ、気づかない。
心配なんか、しないだろう。
『………いいよ。行こう』
それから、俺たちはこっそりと家を抜け出して、外へ出た。
夜風が冷たくて、少しだけ肌寒い。
夏の夜の匂いがした。
利乃と手を繋いで、海へと歩く。
周りに立ち並ぶ民家はとうに明かりも消え、街灯だけが俺と利乃の影をつくる。
海につくまで、何も言わなかった。
ブレスレットを探したあの日と同じように、テトラポットに座って海を眺める。
深夜の海は、優しくて澄んだ空気に満ちていた。
『…わたし、見ちゃったんだ。ママと恋人の男の人が、喧嘩してるところ』
膝を抱えて座る利乃の声を聞きながら、海を眺める。
…利乃の母親は離婚して以来、男をつくっては別れ、つくっては別れを繰り返していた。