青に染まる夏の日、君の大切なひとになれたなら。
そのことに関して、利乃は何も言わない。
責めることも、悲しむこともない。
離婚したときも、利乃は諦めたような瞳をしていたから。
『……リビングにね、行こうと思って階段をおりてたの。そしたら、リビングから男の人の声がして』
ザザン、ザザン、と波打つ音が響き、遠くでいろんな色の光が灯っている。
海に反射した色とりどりの光と、月明かり。
回る灯台の光が、時折顔を出した。
『……“子供がいるなんて聞いてない”、って言って、家を出ていった。……ママね、そのあと泣いてたの』
ぎゅ、と利乃が何かをこらえるように目をつぶる。
…見てしまったんだ、利乃は。
いちばん、辛い光景を。
自分が原因で、母親が恋人に別れを告げられてしまう、その瞬間を。
『……うん』
そう相槌をうつと、利乃は俺を見て『慎ちゃんも』と言った。
『……慎ちゃんも、話して』
まっすぐで、強い瞳。
こんな目をした利乃は、いつも意思が強いから。
仕方ないと思って、俺はポツリポツリと話し始めた。
海が、砂浜の上を行ったり来たりする。
透き通った空気と音が、不思議と気を落ち着かせた。