腕枕で朝寝坊





翌日。



合鍵を渡された私は紗和己さんのマンションで彼の帰りを待っていた。


キッチンには夢心地のような甘い香り。


その芳香はダイニングのテーブルにセットされた鍋から漂っている。



「ただいまー。わ、いい匂い」


夜9時。

帰ってきた紗和己さんが嬉しそうな声をあげて、まっすぐ私のいるダイニングキッチンへと入ってきた。


「おかえりなさい、紗和己さん。準備出来てるよ」


「すごい。これは美味しそうですね。早く食べましょう、手洗ってきます」


溶かしたチョコで満たされた鍋といっぱいのフルーツやマシュマロの並べられたお皿を見て、紗和己さんはニッコリと目を細める。


急いで手を洗い着替えを済ませた紗和己さんが席に着くと同時に、私はフォンデュ鍋に火を着けた。



「僕、チョコレートフォンデュ初めてなんですよ」


「ふふふ。あのね、私のオススメはバナナ。チョコに付けたあとカラースプレー掛けると可愛くて美味しいの」


「出来立てチョコバナナですね。じゃあ早速、いただきます」




昨日、すっかりイジケた私に紗和己さんがしたリクエストは『チョコレートフォンデュ』だった。


「僕の部屋で作って下さい。それに、僕初めて食べるんで、一緒に食べて食べ方を教えて下さい」


そう提案されて、パチクリと目を見開いた私に


「どうです?これって『彼女』じゃなきゃ出来ない『特別』なチョコだと思うんですけど」


紗和己さんはちょっと得意そうに笑いながら私の手に合鍵を握らせた。


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