腕枕で朝寝坊

※まことしやかに赤らみぬ



~まことしやかに赤らみぬ~



※新婚編
※紗和己視点






7月




美織さんと一緒に浴衣を着てほおずき市に行ってきた。


髪をふんわりと結い上げ、えんじ色の浴衣を召した美織さん の可憐さは、それはそれはもう言葉に言い表せない程で。


いつか浴衣姿の彼女を日本画家に依頼して描いて貰おうと、 僕は密かに決意した。


そんな彼女の姿に、ずっと頬が緩んで仕方ない僕だったけど。



市場で朱く色付いたほおずきと硝子の風鈴に触れながら目を 細める美織さんの姿は更に美しくて。

もうこれは芸術だなと感動しながら僕は写真を何枚も撮って しまった。

自分にその美しさを丸ごと写真に焼きつけられる腕が無い事 をもどかしくさえ思うほどに。



8月


あの日買ったほおずきの鉢植えは、たくさん僕らの目を楽しませた後、今は少しずつ土に帰ろうとしている。


けれど。


リビングには美織さんが時間を掛けて丁寧に作った透かしほおずきが、まるで精巧な美術品のように麗しく飾られている。




美織さんと出会った日から、僕の瞳は眼福が過ぎると思う。


様々な表情を見せてくれる可憐な彼女。

そんな彼女の手が作り出す美しいものの数々。


なんて贅沢なのだろうと、銀細工のような網に包まれた朱い実を見てつくづく感じた。



僕のスマートフォンのロック画面には、朱の実に囲まれた艶やかささえ漂う浴衣姿の美織さんの写真。


美に魅入られた人間が大金を積んででもそれを手に入れたがる事を、ずっと愚だと思っていたけれど。

その気持ちが分かるようになって来た僕も、きっと愚かな美の虜だ。


「本当に罪作りですね……」


何度見ても感嘆の溜め息が零れるロック画面を眺めながら、僕は今日も瞳に贅沢な美を焼きつける。





~まことしやかに赤らみぬ・完~

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