恋の糸がほどける前に

「ただいまー」


傘立てに傘を入れ、靴を脱いで家に上がると、リビングからお母さんがニコニコ顔で出てきた。

「おかえり!」


……何?

その、満面の笑み……!

何を企んでるんだろう、となんだか身構えてしまった私だけど、その嫌な予感は残念ながらあたっていたようだ。

怖いくらいの満面の笑みで、ずいっ、とずっしりと重みのある紙袋を手渡される。


「何、コレ?」

「貴くんのところに持っていってくれない?今日、由架たちいないんですって。まぁ高校生だし適当に外食でもしてるのかもしれないけど、一応、ね!」


由架、というのは母の妹で、萩野先輩のお母さんの名前だ。

私にとってはおばさんにあたるのだけど、若いし可愛いし、全然「おばさん」って感じがしないから、由架さんって呼んでいる。

由架さんと旦那さんは今もラブラブで、しょっちゅうふたりで旅行に行くから、たぶん今日もそうなんだろう。

そういう日は、必ず私のお母さんは萩野先輩の分までご飯を作って、私かお兄ちゃんに持って行かせるんだ。

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