恋の糸がほどける前に
「それにしても、何か多くない?」
ちらっと紙袋の中を覗き込むと、とてもじゃないけどひとりで食べる量とは思えないタッパーの数。
「そうそう、あんたも今日いなかったでしょ?純希も部活の子たちと食べてきたみたいでね。さっき帰ってきたのよ。だからたくさん余っちゃったわけ。……あ、そうだ、あんた暇なら今日純希と泊まってくれば?貴くんもひとりじゃさみしいだろうし」
「嫌だよ、面倒くさい。そういうのはお兄ちゃんに頼んで」
だいたい明日朝から部活あるし!
イトコだからって、軽々しく泊まるのはさすがにちょっと気がひける。
……あんな毒舌野郎でも、一応可愛い彼女がいるし。
勘違いなんかされたらそれこそ面倒だ。
「あ、そう。なんでもいいけどこれ持って行って。ほらほらほら」
「ちょ、わかったから押さないでよ!」
お母さんにぐいぐいと背中を押され、半ば強制的に家を追い出された。
……はあ。
どうしてお兄ちゃんに行かせなかったの、もう!
せっかく水原が送ってくれたのに、母親に追い出されるってなんか切ないんですけど。
「……まぁ、仕方ないかぁ」
はあ、とひとつため息を吐きだして、私は手渡された紙袋を持ち直し、肩にかけっぱなしだった通学カバンを肩に掛け直して、歩き出した。