天使の涙
「うん、うまい!!サイコーやなっ。凛もはよ食べてみぃ」
「いただきます」
スプーンで掬ったメロンを口の中に運ぶと、途端に甘い香りがフワリと広がる。
美味しいです、と隣にいる畑山先生を見ると彼はそうか、と言って微笑んだ。
「灰皿、かたしといてくれたん凛やろ?ありがとうな」
「¨いつも¨有り難うでしょ。先生はルーズすぎます。牛乳の子も」
「ハハッ!!確かにいつもやな。ん…?牛乳の子?あー…あいつか」
先生はスーツの胸ポケットからタバコを取り出し、口に銜えて火をつけた。シガレットの匂いがツンと鼻を掠める。嫌いじゃないけど好きでもない。
「会ったんか?」
「……へ?」
「牛乳の子や」
「いや、会ってませんけど」
「ふ。そー…か」
畑山先生は自分の口から出される煙をボンヤリ見つめながら、脚を組み直した。
物思いにふけっているような感じ。いつもとは何か違う雰囲気がするのは、着ているものがスーツだからじゃない。
今思えば帰って来た時から様子がおかしかった。いつもよりテンションが高かったし、普段なら私と適度に距離を取る彼が、こうして並んで座るのも有り得ないことだ。
出掛け先で何かあった?
「勘ぐるんはよしぃ。凛の悪い癖やぞ」
「え…」
「ごめんな。心配してくれとるのはわかるけど、何も聞かんでくれると嬉しいわ」
つまりソッとして置いてと言う意味なのか。私はコクリと頷き、部屋に戻ろうと思って立ち上がった。
すると
「……きゃ!!」
腕を引かれ、倒れ込んだ先は畑山先生の膝の上。一瞬、何が起こったのか理解出来ず、身体が硬直した。
抱き締められたのだ、彼に。
「は、た…」
「怖いか?怖いんやったら殴ってええよ」