天使の涙
星降る夜の奇跡


山口県の田舎にある小さな施設。山や田んぼに囲まれたこの場所で、様々な家庭の事情を抱えた子供たち数十人が団体生活をしている。


「ハァ……ハァ…一時間歩かなきゃコンビニも無いって、どんだけよ」


買い物に行くにしても駅に行くにしても、徒歩で約二時間は歩かなければならない。バスも走ってなければ車の通りも疎らだし、田舎は田舎でも超ド級のド田舎だ。


「万年もやしっ子の私には丁度良いか。筋力つきそう……」


買い物袋を片手に、長い長い坂道を昇りきる。木造建ての施設の中に入ると、私は小さくただいまを言った。だけど返事が返って来ることはない。


ここにいる子たちは皆、それぞれ自分の部屋に籠っていて、滅多に会うことがないから未だに顔と名前が一致しないんだ。中には未だ一度も顔を見たことがない子もいる。


干渉されないのは良い。人と関わりを持てば¨何で笑わないの?¨とか煩わしいことばかり聞かれるから。


「またコンビニ行ってたんか、凜。出掛ける時はちゃんと一言言いっていつも言うとるやろ」


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