天使の涙
最悪で最低な二人の出会い
「貴方、誰?」
気付いたら私は男の子にそう問い掛けていた。いつもならそんな事を聞いたりしないのに。
ゆっくり、漆黒の髪と同じ色の瞳がこちらに向けられた。
「…――っつうか普通、自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ」
顔に似合わないぶっきらぼうな言い方。でもまぁ確かにそれもそうだなと思って、私は先に名乗った。
「私は、凜」
「もしかして裏の施設の奴か?」
目を細めてジッと見つめて来る男の子に、私はコクリと小さく頷く。すると
「ふ~ん…あっそ。じゃあ、お前、腐ってんだな」
¨腐ってんだな¨
「は?」
言われたことを理解するまでに時間が掛かってしまったけど、物凄く失礼なことを言われたんだってことはすぐに理解出来た。
侮辱されたんだ、私。
「あそこに居る奴は全員腐ってるからな――…」
―パァァン!!
大きく振り翳した右手は、小気味良い音を立てて男の子の頬に命中した。そこにくっきりと残る手の平の痕。だけど、こんなんじゃ腹の虫が治まらない。
「っぃってェ…」
「アンタなんかに…アンタなんかに私たちの何が分かるのよ!!」
全速力で施設に向かって駆け出す。背中の方から男の子が呼び止める叫び声が聞こえたけど、振り返らずに無視した。