天使の涙
最悪で最低な二人の出会い


「貴方、誰?」


気付いたら私は男の子にそう問い掛けていた。いつもならそんな事を聞いたりしないのに。


ゆっくり、漆黒の髪と同じ色の瞳がこちらに向けられた。


「…――っつうか普通、自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ」


顔に似合わないぶっきらぼうな言い方。でもまぁ確かにそれもそうだなと思って、私は先に名乗った。


「私は、凜」


「もしかして裏の施設の奴か?」


目を細めてジッと見つめて来る男の子に、私はコクリと小さく頷く。すると


「ふ~ん…あっそ。じゃあ、お前、腐ってんだな」


¨腐ってんだな¨


「は?」


言われたことを理解するまでに時間が掛かってしまったけど、物凄く失礼なことを言われたんだってことはすぐに理解出来た。


侮辱されたんだ、私。


「あそこに居る奴は全員腐ってるからな――…」


―パァァン!!


大きく振り翳した右手は、小気味良い音を立てて男の子の頬に命中した。そこにくっきりと残る手の平の痕。だけど、こんなんじゃ腹の虫が治まらない。


「っぃってェ…」


「アンタなんかに…アンタなんかに私たちの何が分かるのよ!!」


全速力で施設に向かって駆け出す。背中の方から男の子が呼び止める叫び声が聞こえたけど、振り返らずに無視した。


< 8 / 32 >

この作品をシェア

pagetop