ラストバージン
「そういえば、こんな場所だと寒いですよね。すみません、気が利かなくて……」

「平気です」


確かに寒いけれど、心地好さのおかげで嫌だとは思わない。


別に冬が好きな訳でも、決して寒さに強い訳でもないのに……。

「ココアのおかげで温まって来ましたから」

今は何故かあまり寒さが気にならなくて、自然と笑みが零れた。


安堵の笑みを浮かべた榛名さんが、おもむろに空を見上げる。


都会でも田舎でもない街だけど、街灯が邪魔をして星はあまり見えない。
人通りはそれなりにある場所なのに、下弦の月だけが目立つ夜空は静寂に包まれているような気がした。


「僕、冬の夜って結構好きなんです」


不意にそんな事を口にした榛名さんに、夜空から視線を戻す。


「寒いけど、その凜とした空気感に何だかホッとするんです」


言われてみればそんな気がするなんて、私はそんなに単純な性格だっただろうか。


「寒さに強い訳じゃないのに、寝る前にベランダに出たりして……。白い息を吐き出しながら、ココアで温まるんです」


「どこか矛盾していると思いませんか?」と笑う榛名さんは、落ち着いた顔付きの中に少年のようなあどけなさを覗かせていた。

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