ラストバージン
同じくらいのタイミングでココアを飲み干した私達は、どちらともなくベンチから立ち上がった。


時間にしてみれば、榛名さんと話していたのはほんの十五分程だったし、話の内容だって別に大したものじゃなかったけれど……。

「じゃあ、また……」

何故かとても濃く感じて、名残惜しさを抱いてる自分がいる事に気付いた。


「送りますよ」


そんな私が頭を下げようとした時、榛名さんが笑顔でそんな事を口にした。


「いえ、そんな……」

「どちらですか?」


慌てて断ろうとした私を笑顔で遮り、彼は左右に視線を遣った。


「左ですけど……」

「同じ方向だ」

「え?」

「案外、近いのかもしれませんよ」


「行きましょう」と破顔した榛名さんを、慌てて追う。
さっきと同じようにゆっくりと歩いてくれる彼に追い付くのは容易くて、戸惑いながらも隣に並んだ。


「道、教えて下さいね」


ニッコリと微笑まれて思わず頷いてしまった私に、榛名さんは満足げな表情を見せた。
結局、他愛のない話の合間に道案内の言葉を挟みながら家路を進む事になり、五分もしないうちに見えて来たマンションの手前で「あのマンションです」と指差した。

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