ラストバージン
「実は、結木さんを楓で見掛ける時は大体あそこに座っているから、いつも『先を越されたー』なんて思っていたんですよ」


悪戯っぽく笑う榛名さんは、髪の色が黒いせいもあるのかもしれないけれど、少年のように幼く見える。


「だから、結木さんの事は以前から知ってはいたんです。話すキッカケはなかったので声を掛ける事はなかったんですけど、僕と同じ席を指定席にされているからすぐに覚えてしまって。ついでに言うと、看護師だというのも結木さんから聞く前から知っていました」

「そうなんですか?」

「すみません。ずっと前に、結木さんとマスターが話しているのが聞こえてしまって……」


バツが悪そうに笑った榛名さんに、首を横に振って笑顔を見せる。
すると、彼は再び柔らかい笑みを浮かべた。


「まさかお見合いの事をキッカケに話すようになるとは思いませんでしたが、指定席が同じだったり、同じ日にお見合いをしたり、家が近所だったり……。結木さんとは接点が多いので、驚きました」

「確かに、そうですね」


クスクスと笑った私に、榛名さんは柔らかい表情のまま頷いた。


「僕達、気が合うかもしれませんね」


それから、私をじっと見つめた彼が、しみじみとそんな事を言った。

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