ラストバージン
「すみません……」


ブスッとした表情を見せた矢田さんに、傍にいた酒井さんが眉を寄せる。


「矢田さん、自分のミスを見付けて貰ったんだから、そういう顔は良くないと思うんだけど」


厳しい言葉を投げ掛ける酒井さんの言い分はもっともで、矢田さんの態度は確かに注意すべき事なのだろう。


「それに、昨日も同じようなミスしてたよね? 私、『もっと気を付けて』って言ったじゃない」


だけど、険悪な雰囲気にヒヤリとして、思わず笑みを繕った。


「酒井さん、ここは私に任せてくれる?」

「主任……」


今年度で三年目になった酒井さんと、彼女の同期にそれぞれ二人ずつ新人を任せていて、矢田さんの指導看護師は酒井さんだから、きっとストレスが溜まっているのだろう。


「その代わり、四〇八の中川(なかがわ)さんなんだけど、患部に熱がこもってるみたいだったからアイシングを持って行ってくれないかな?」


だからこそ、何とも言えない表情をした酒井さんの気持ちを汲み取る事も忘れずに、ニッコリと微笑んだ。


「わかりました。ついでに、入浴介助も手伝って来ます」


不満を隠すように小さく笑った彼女は、休憩室を兼ねているナースステーションの奥の部屋から出て行った。

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