ラストバージン
「あのね、矢田さん。どんな仕事でもそうだけど、特に医療の現場では『仕方ない』では済まされない事がたくさんあるの。命を預かっているんだから」

「外科や救命ならともかく、リハ科ってそんなに大袈裟なところじゃないじゃないですか」


気を取り直して矢田さんに向き合ったけれど、彼女は嘲るような顔付きになった。


「ちょっと、矢田さん! あなた、一体どういう神経してるの?」


呆然としてしまった私が感じていた事を声にしたのは、この場にやって来た同僚だった。
休憩室にいるのは私と矢田さんだけだったからすっかり油断していたけれど、きっと休憩を取ろうとしたのだろう。


「あなた、どうして看護師になった訳?」


矢継ぎ早に訊いたその顔は、不快感をあらわにしている。
しっかりした性格で仕事も出来るその同僚は、矢田さんへの不満が酒井さんと同様に溜まっているのだろう。


「ちょっと待って。矢田さんも悪気がある訳じゃないと思うの。今は覚える事がたくさんあって、きっといっぱいいっぱいになっているだけだと思うし……」


矢田さんを庇う事に理不尽さを感じてしまいながらも、決してそれを顔に出すまいと同僚に苦笑を向けた。

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