ラストバージン
こんなにも饒舌な姿も、太陽のように笑う姿も、私を含めた同僚達は見た事がなかったと思う。


「ねぇ、矢田さん。今もまだ、その人のようになりたいと思ってる?」


矢田さんの瞳が自信無さげに揺れ、視線が僅かに落ちる。


「……はい。あの頃からずっと、そう思っています」


だけど、話を聞いて思っていた通り、胸に熱いものを秘めているらしい矢田さんは私を真っ直ぐ見つめ、大きく頷いて見せた。
それを聞いて安心したのは、彼女にはまだ可能性があると思えたから。


「でも……実際は失敗ばかりだし、患者さんや先輩に怒られてばかりだし、たぶん看護師に向いていないんだと思います、私……」


自信のなさは、まだ経験が浅いから。
それを培えば補える事はたくさんあるし、本人にやる気があれば少なからず成長出来るはず。


「矢田さん、顔を上げなさい」


厳しい口調で告げると、矢田さんが不安をあらわにしながら顔を上げた。


「その人のようになりたいと思うのなら、まずは患者さんの前で笑顔を絶やさないようにしなさい。その看護師さんは、あなたのように笑顔のない看護をしていた?」


彼女はハッと目を見開き、反省混じりの表情で首を小さく横に振った。

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