ラストバージン
「別に謝る必要はないよ。僕が勝手に独り占めしようとしていただけだから」

「私……ここにはもう来ないようにしますから……」


日高先生がちっとも怒っていない事はすぐにわかったのに、何故か熟慮もしないうちにそんな風に返してしまっていた。


「その必要はないよ」

「え?」

「院内には誰にも見られない場所なんてあまりないし、患者さんの前で泣くと先輩達から叱られてしまうよね?」

「はい……」


確かに、この場所以外で人目に付かないところは知らない。
それに、患者さんはもちろん、院内では同僚や先輩達の前でも涙を見せる事は出来ないし、見られたくもない。


すっかり泣き虫になっていた私は、自然と泣く事を前提に考えるようになってしまっていた。


「だからね……」


そんなどうしようもない私に、日高先生がとても優しい笑みを向けている。


「泣きたくなったら、僕のところにおいで。僕はよくここにいるから、ここで泣くといいよ」


そして、柔らかな声音で、そんな言葉を紡いだ。


胸の奥がドキドキと高鳴ったのはきっと不可抗力で、どうしようもなかった事だったと思う。
これが、泣いてばかりいた私と、どこか不思議な雰囲気を持つ日高先生の出会いだった――。

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