ラストバージン
寒さ厳しい冬から暖かな春へと季節が変わった四月、病院の敷地内の桜は淡いピンクの花を満開に咲かせていたけれど……。

「……今日は、つらい事があったんだね」

私は瞳いっぱいに涙を浮かべていて、いつもの場所にいた日高先生を見た瞬間、それを堪える事が出来なくなってしまった。


「おいで」

「……っ」


階段を駆け上がって日高先生の元へ行くと、彼は私を壁際に立たせた。


「どうしたの?」


先日、ようやく回復の兆しが見えた七歳の女の子が、今朝急変して亡くなってしまったのだ。
出来る限り手を施したけれど、天使のような少女がその瞳を開けてくれる事はなかった。


担当していたのは先輩看護師だったものの、私によく懐いてくれていて、私もいつも声を掛けるようにしていた。


昨日は笑っていた子が、今はもう目を開けてもくれない。
看護師になってから何度も経験して来た事だったけれど、小児科病棟でそんな状況を目にする度に心が悲鳴を上げ、数え切れないくらい辞めたいと思った。


それでも、日高先生のおかげで、何とかまだ頑張れそうな気がしていたのに……。

「……ひっ……っ、くっ……ぅ……」

今日ばかりは、本当にもう無理だと感じていた。

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