ラストバージン
「君は、本当に……」


日高先生はそこで言葉を止め、縋り付くように彼を見上げている私に苦笑を零した。
ゆっくりと一歩近付いて来た日高先生が、私の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「何だか、今にも壊れてしまいそうだね。本当はもう、心がボロボロなんじゃない?」


葛藤するような、それでいて痛みを孕んだような声音が耳に届いた直後には、泣いているせいで震えている体が温もりに包まれた。


涙は、まだ止まらない。
だけど……それまで悲しみだけを感じていた心がグッと掴まれたように、目の前よりもずっと近いところにいる日高先生に囚われた。


「僕は、君の事だけは放っておけそうにないよ」


つらくて、悲しくて、苦しくて。
日高先生の言葉を理解するまでに至らない頭の中は、真っ白な雲のように色を失っていて。


それでも、何枚かの布を通して感じる温もりが彼の体温なのだと気付いた時、暗闇の中にいた心がゆっくりと浮き上がって来た。


「君に泣かれると、僕までつらくなるんだ」

「先生……?」

「僕が傍にいてあげるから、もう泣かないで」


日高先生は私の耳元で酷く悲しげに囁いた後、背中に回した腕はそのままに、顔だけを少しだけ離した。

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