ラストバージン
日高先生と付き合うようになって九ヶ月が過ぎたけど、私達が恋人同士だという事は職場では秘密にしていた。


職場恋愛をあまり良く思っていないという噂がある理事長の手前と、『付き合っていると知れ渡れば仕事がやり難くなるだろうから』と言った日高先生の言葉で、内密にしようと決まったのだ。
実際、ドクターと付き合っていると知られたら先輩達からの風当たりが強くなるだろうから、私自身もその提案に素直に納得出来た。


ただ、信頼のある日高先生は病棟でも外来でも引っ張り凧で、いつだって忙しい。
だから、私達のデートの場所は、いつもあの非常階段の踊り場と私の家ばかり。


外科の忙しさは私もよくわかっているつもりだから不満はなかったけれど、会う場所がその二つだけというのは少しだけ寂しかった。


「そうだ」

「どうかしましたか?」


寂しさを押し殺して玄関先まで見送った私を、日高先生が優しく微笑みながら見つめた。


「まだ少し先になりそうだけど、三日くらいなら休暇が取れそうなんだ。そのうち二日は葵との為に空けておくから、旅行にでも行こうか」


考えてもみなかった提案に、目を小さく見開く。
それからすぐに、言葉には出来ない程の喜びが込み上げて来た。

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