ラストバージン
バシッと乾いた音が左の耳元で響いたのと同時に、左頬がジンと痛んで熱を持ったのがわかった。


「え……?」


何が起こったのか、よくわからなかった。


「結木さんっ!?」


見ず知らずの女性に叩かれたのだと気付いたのは、ナースステーションにいた先輩が私に駆け寄って来る姿が見えた時だった。


「あなたが主人に言い寄ったの!?」

「え……?」


「一体、どれだけ恥知らずなのっ!! どうせ、体を武器にして主人に近付いたんでしょう!?」


咄嗟に女性を止めようとした先輩を余所に、女性は私を睨み付けながら声を荒げ、呆然とする私に罵声を浴びせた。
思い当たる節がない上、自分の身に降り掛かった突然の状況に驚き過ぎて、ここまで言われても何の事なのかさっぱりわからない。


「人の旦那に手を出すなんて信じられないっ!! 今までどういう教育を受けて来たの!? ちょっと若くて可愛いからって、調子に乗らないで!」


すると、女性は何も言い返せずにいた私にとどめを刺しに来るような勢いで、力いっぱい先輩の体を押し退けた。


「義成は私の夫なのよっ……!」


その直後、あまりにも信じ難い言葉が、まるで私の胸の奥を抉るかのように鋭い刃となって飛んで来た。

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