ラストバージン
その夜、師長からの電話で『しばらく有休を使って休みなさい』と告げられ、翌日から予定外の休暇を取る事になってしまった。
この措置自体は予想していた事だったし、あんな騒ぎが起きた後ではもちろん職場に顔を出しづらいけれど、それでもこの状況で一人で過ごすのはつらかった。


まだ受け入れ切れていない現実と向き合うのは、胸の奥に突き立てたナイフで抉られるように苦しくて……。一人ぼっちの静かな部屋が、孤独をひしひしと感じさせる。


あまりにも突然に別れを突き付けて来た元恋人が既婚者だった、という事実。


それだけでも、傷心だった私には充分過ぎる程の苦しみを与えたのに……。子どもまでいたという現実に、心臓がグシャリと握り潰されてしまいそうだった。


泣いても泣いても涙は止まらなくて、昨夜帰宅してからずっとベッドの上から動けずにいる私の手は、鳴らないスマホを弱々しく握り締めているだけ。


日高先生と話をしたいけれど、とても連絡出来るような状況じゃない。
今までは忙しい彼に遠慮をする事はあっても、連絡をするという行為自体は当たり前だった。


だけど……日高先生に奥さんがいると知った今、彼に電話やメールをするなんて無謀な事だと思えた。

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