ラストバージン
それから三日後、思いもよらない来客に息が止まりそうになった。


「葵……」


インターホンを鳴らされても居留守を使っていると聞き慣れた声が耳に届き、私は弾かれたようにベッドから降りて玄関のドアを開けた。


「……っ、日高先生っ……!」


この三日間ですっかり疑心暗鬼になっていた私は、日高先生の事を恨み始めていたのに……。

「葵、本当にごめん……」

彼の顔を見た瞬間、頭で考えるよりも先に抱き着いていた。


だけど、いつものように抱き締め返してくれる事のない腕がこの数日間に起こった事が現実なのだと改めて語っているようで、私は胸の奥が抉られるような痛みを感じながら日高先生から離れた。


「外科部長から事情は聞いたよ……」


その場にいなかったはずの人から話が入ったという事は、きっと院内に知れ渡っているも同然だろう。


「まさか、妻が病院にまで来るなんて……」


あの病院に、もう私の居場所はない。


「先生、私……」

「妻は『今すぐ別れたら許す』って言っていたんだけど、こんな事になるなんて……」


そして、日高先生の傍という一番安らぐ場所までも失った事をまざまざと思い知らされ、もう何もかもがどうでも良くなってしまった。

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