ラストバージン
日高先生は、私との事が奥さんにばれて問い詰められでもしたのだろう。
そして、奥さんに『許してくれ』とでも懇願し、その条件として『今すぐに別れる事』と言われたのだろうか。


「妻には、『葵と別れたら何もしない』と約束させたんだ。それなのに、まさか病院で騒ぎを起こすなんて参ったよ……。葵もだろうけど、僕も立場どころか居場所もなくなって困っているんだよ……」


(どうして、奥さんがいる事を言ってくれなかったんですか……? お子さんまでいたのに、どうして私と付き合ったりなんてしたんですか……?)


ずっと日高先生に訊きたかった事はまだ頭の中にあるのに、下らない言葉を並べる彼を見ているとバカバカしく思えた。


「もう、いいです……」


いつの間にか涙は引っ込んで、日高先生を見ていた瞳には嘲笑が混じった。


「葵……?」

「私だって、不倫なんてしたくなかった……」


どんなに日高先生の事が好きだったとしても、彼が既婚者だと知っていたらきっと必要以上に近付いたりはしなかったはず。


「もう、ここには来ないで下さい」


それを誇張するように冷たい声音で紡いだ言葉を投げ付け、目を小さく見開いていた日高先生を強引に追い出した。

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