ラストバージン
一分もしないうちに日高先生の足音が遠ざかり、1LDKの部屋に静けさが戻って来た。


(バカみたい……)


そのままずるずると座り込み、心の中で自嘲の言葉を繰り返した。
日高先生を好きだった私も、既婚者のくせに私と付き合った彼も、救いようのないバカに違いない。


外科病棟と離れている小児科病棟にいれば、外科スタッフの個人的な情報なんて中々入って来ないけれど……。もっと注意深く周囲の噂話に耳を傾けていれば、日高先生が既婚者だという事くらいはわかったはず。


小児科病棟内では世間話が出来るような親しいスタッフがいない事、私が今の病棟に異動した時に外科にいた親しいスタッフも他の病棟に配属されてしまった事。
そして、あまり噂話に興味を持たない性格が、多少なりとも災いの一因になっているのだろう。


だけど、日高先生がうちの病院に来てから二年弱になるのに基本的な事すら知らなかった自分に、ほとほと呆れ返ってしまった。


誰が結婚しているのかなんて自分が気にしなければあまり入って来ない情報とは言え、きっともっと早くに知るきっかけがあったはず。
こんな事を考えてもどうしようもないのに、つまらない事ばかりに思考を取られていた。

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