ラストバージン
日高先生が来た翌日にまた師長から電話があり、『もうしばらく休みなさい』と告げられた。
予想通り、院内は私と彼の話題で持ち切りなのだろう。


腕のいい日高先生に反し、ただの看護師である私の代わりなんていくらでもいるだろうから、近いうちに自主退職でもさせられるのかもしれない。
もしそうならなかったとしても、あんな騒ぎの後にどんな顔をして働けばいいのかわからないし、結局のところは辞めるしかないだろう。


全てがどうでも良くなってしまったせいか、不思議と今後の事に不安を感じてはいなかった。
ただ、何日間も散らかった部屋をぼんやりと見つめているだけだった自分に、最低限の行動しかしない生活にはいい加減踏ん切りを付けなきゃいけないと言い聞かせ、すっかり鈍くなった体をのろのろと起こした。


それなのに、どうしてもやる気の出ない体はそこから動こうとしなくて、ため息だけが漏れる。
そうしてまたぼんやりと過ごしていると、ベッドに無造作に置いていたスマホが鳴った。


【恭子】


思い掛けない友達からの着信に戸惑ったのは、ほんの数秒の事。
ずっと誰かに助けて欲しかった私は、震え続けるスマホに縋り付くように手を伸ばし、すぐに通話ボタンを押した。

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