ラストバージン
「電話では時々話してたけど、会うのは久しぶりだね」

「うん」

「纏まった休みが貰えたから、実家に帰って来てたんだ」


恭子を散らかったままの部屋に促すと、彼女は「どうしたの?」なんて訊いたりはせずに、ごくごく普通に笑った。


卒業と同時に中距離恋愛をしていた恋人と同棲する事を決めた恭子の職場は、彼の家から通える距離にある大きな病院だけれど……。よく考えてみると、彼女の実家は私達が通っていた大学から三十分程の距離に当たる場所で、この街からもわりと近い。


だから、恭子が実家に帰っていたのだと聞いた直後には、さっき抱いた疑問が解決した。


「……話、聞こうか? それとも話したくない?」


そんな事を考えていた私に、彼女がフワリと微笑んだ。


「私はどっちでもいいよ。葵が聞いて欲しいと思うなら聞くし、話したくないなら何も訊かない。でも、家に帰るのは明日の夕方だから、何なら一晩中付き合えるよ」


決して押し付けがましくはない、思いやりの言葉。


最初から事情を訊かれていたら、素直に話せなかったかもしれないけれど……。

「私でよかったら、今夜は傍にいるからね」

優しく包み込むような声音で言った恭子に、私はすんなりと縋り付く事が出来た。

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