ラストバージン
どんな表情をしているのかわからない榛名さんは、ほんの一瞬沈黙を携えた。


「……は?」


程なくして驚き混じりの声が耳に届き、彼が困惑しているのがわかった。


付き合いの長い菜摘も、私の事を大切に育ててくれた家族すらも知らない、私が犯してしまった許されない罪。
それは決して知られたくなかった過去で、相手が榛名さんなら尚の事だった。


「ごめん、ちょっと待って……。混乱しちゃって……」


困惑の声にさっきまで以上の不安を感じて胸の奥がじりじりと痛み出し、ようやく見る事の出来た彼の疑いの表情にまた怯みそうになる。


「不倫なんて、冗談……」


それでも、自らが作り出したキッカケのおかげで、続く言葉がスルスルと口に出た。


「冗談なんかじゃないよ。その人との関係は九ヶ月間くらいで、忙しい人だったから外で会う事は一度もなかったんだけど、それでも普通の恋人と同じように付き合ってた」


暗に込めた、日高先生との体の関係。


不倫をしていた事を聞けば、榛名さんだってそれくらいの事はわかるだろうけれど……。はっきりと言葉にしなくてもそれに近いニュアンスを口にする事で、彼の中でより真実味が増しただろう。


それが、目的だった。

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